メインコンテンツに移動

これからのDrupal - エンタープライズCMSの新時代

2025.08.01   2025.10.12
Drupal

Drupalとは?

Drupal(ドゥルーパル)は、PHPで開発されたオープンソースのCMS(コンテンツ管理システム)です。

世界中の政府機関・大学・メディアサイトで使われています。


Drupalの哲学

Drupalは単なる「CMS(コンテンツ管理システム)」ではありません。コンテンツ管理フレームワークという位置づけです。

WordPressが「ブログを書くためのツール」から進化したのに対し、Drupalは最初から「どんなWebアプリケーションでも構築できる基盤」として設計されています。

この違いは重要です。WordPressは「既にあるものを使う」感覚ですが、Drupalは「自分で設計する」感覚に近いのです。

これまでの歴史と進化

Drupalは2001年に誕生し、20年以上の歴史を持ちます。その間、世界中の開発者コミュニティによって磨き上げられてきました。

  • Drupal 6 (2008): エンタープライズ採用が加速
  • Drupal 7 (2011): Views統合により飛躍的に使いやすく
  • Drupal 8 (2015): Symfonyフレームワーク採用で近代化、多言語対応をコア機能に統合
  • Drupal 9 (2020): レガシーコード削除、継続的なアップデートモデル(Drupal Core)を開始
  • Drupal 10 (2022): 最新技術スタック(PHP, Symfony, Composerなど)への完全移行
  • Drupal CMS (2025): 非開発者(マーケター、サイトビルダー)向けの利用体験を最適化し、事前設定されたパッケージで導入障壁を大幅に低減

Drupal 10の技術スタック

Drupal 10は、最新のWeb技術標準に準拠しています:

  • Symfony 6: PHPの最先端フレームワークをコアに採用
  • PHP 8.1+: 最新のPHP機能を活用(8.3推奨)
  • Twig: セキュアなテンプレートエンジン
  • Composer: モダンな依存関係管理
  • CKEditor 5: 次世代のリッチテキストエディタ

これらは単なる「流行の技術」ではなく、長期的な保守性とセキュリティを保証するための選択です。


WordPress vs Drupal - どちらを選ぶべきか

まず明確にしておきたいのは、WordPressとDrupalは競合ではなく、用途が異なるということです。

比較項目WordPressDrupal
市場シェア約43%(圧倒的)約2%(ニッチ)
主な用途ブログ、中小企業サイトエンタープライズ、政府機関
学習コスト低い(数日〜数週間)高い(数週間〜数ヶ月)
拡張性プラグインに依存コアアーキテクチャレベル
セキュリティプラグイン次第専門チームが常時監視
大規模サイト工夫が必要標準で対応
開発者確保容易やや困難
長期保守性テーマ/プラグイン依存コアアップデートで継続

WordPressが向いているケース

  • 個人ブログ、小規模サイト
  • 迅速な立ち上げが必要
  • 技術リソースが限られている
  • 標準的な機能で十分

Drupalが向いているケース

  • 大規模サイト(数千〜数万ページ)
  • 複雑なコンテンツ構造
  • 高度なセキュリティ要求
  • 多言語・マルチサイト
  • 長期運用(5年以上)
  • カスタマイズが前提

その他CMSとの比較

Joomla: DrupalとWordPressの中間的な位置づけ。

Contentful/Strapi(ヘッドレスCMS): モダンな選択肢ですが、Drupalも完全にヘッドレスCMSとして機能します。しかもレガシーシステムとの統合も可能。

独自CMS: 開発コストと保守コストを考えると、よほど特殊な要件がない限りDrupalで実現できます。


Drupalを選ぶべき5つの理由

理由1: エンタープライズグレードのセキュリティ

Drupalの最大の強みはセキュリティです。

専門のセキュリティチーム

Drupalにはセキュリティチームが存在し、脆弱性の報告から対応まで組織的に行われます。

  • 重大な脆弱性は24時間以内にパッチ公開
  • 脆弱性報告を受けると迅速にパッチを公開(Security Advisories
  • 修正版は drupal/core などのComposer更新で即時反映可能

OWASP Top 10対策

DrupalはOWASP(Open Web Application Security Project)のTop 10脆弱性すべてに対する対策が標準実装されています:

  • SQLインジェクション → パラメータ化クエリ
  • XSS → Twigテンプレートエンジン
  • CSRF → トークンベース保護
  • クリックジャッキング → X-Frame-Options

WordPressでこれらすべてをカバーするには、複数のプラグインと細心の設定が必要です。

理由2: 無限のスケーラビリティ

「今は小規模だけど、将来的に大きくしたい」──そんなサイトにこそDrupalです。

実績が証明する処理能力

  • Tesla: グローバルサイト展開
  • Pfizer: 製品情報の多言語展開
  • ネスレ日本: 企業サイト
  • デジタル庁: ウェブサイト。政府統一Webサイトの共通CMS基盤を目指している

これらのサイトは「最初から大規模」だったわけではありません。Drupalのスケーラビリティにより、成長に合わせて拡張できたのです。

 

マルチサイト機能

1つのDrupalインストールで、複数のサイトを管理できます:

example.com          (メインサイト)
blog.example.com     (ブログ)
shop.example.com     (ECサイト)
en.example.com       (英語版)
fr.example.com       (フランス語版)

データベースは共通でも分離でも可能。管理画面は統一され、アップデートも一度で済みます。

WordPressのマルチサイト機能とは、柔軟性の次元が違います。

理由3: 柔軟なコンテンツモデリング

Drupalの真髄は「コンテンツタイプ」と「フィールド」の概念です。

コンテンツタイプとは

WordPressには「投稿」と「固定ページ」がありますが、Drupalでは無限にコンテンツタイプを作成できます:

  • ブログ記事
  • 製品情報
  • イベント
  • ニュースリリース
  • FAQ
  • スタッフプロフィール
  • レシピ
  • 不動産物件 ...など

フィールドベースの設計

各コンテンツタイプには、必要なフィールドを自由に追加できます:

例: 製品情報コンテンツタイプ

- 製品名(テキスト)
- 価格(数値)
- 画像(メディア、複数)
- カテゴリ(タクソノミー参照)
- 仕様(段落、繰り返し可能)
- 在庫状況(リスト、選択式)
- 関連製品(エンティティ参照)
- PDF資料(ファイル)

これらすべてがコードを書かずに管理画面から設定できます。

ヘッドレスCMSとしても機能

Drupalは完全なRESTful APIとJSON:APIを標準搭載:

GET /jsonapi/node/product
{
  "data": {
    "type": "node--product",
    "id": "uuid-here",
    "attributes": {
      "title": "商品名",
      "field_price": 9800,
      "field_stock": "in_stock"
    }
  }
}

React、Vue、Next.jsなどのフロントエンドから利用可能。モダンなJamstack構成も実現できます。

理由4: 多言語・マルチサイト標準対応

グローバル展開を考えているなら、Drupalの多言語機能は他の追随を許しません。

100以上の言語に対応

Drupalはコア機能として多言語化をサポート:

  • インターフェース翻訳
  • コンテンツ翻訳
  • URL翻訳(パス)
  • メニュー翻訳
  • タクソノミー翻訳

WordPressでは「WPML」や「Polylang」などのプラグインが必要ですが、Drupalでは標準です。

言語フォールバック

訳文が存在しない場合の処理も柔軟:

優先順位: 日本語 → 英語 → デフォルト言語

実例: グローバル企業のサイト

Johnson & Johnson: 60カ国以上の地域サイトをDrupalで統合管理しています。

各地域の規制に対応しながら、ブランドの統一性を保つ──これを実現できるのがDrupalです。

理由5: 長期的なコスト削減

「Drupalは初期投資が高い」──これは事実です。しかし、**TCO(Total Cost of Ownership)**で考えると話は変わります。

ライセンスフリー

Drupalは完全にオープンソース:

  • ライセンス費用: 0円
  • モジュール(99%以上): 0円
  • テーマ(ほぼすべて): 0円

商用CMS(Sitecore、Adobe Experience Manager)だと、ライセンスだけで年間数百万円〜数千万円です。

技術的負債の削減

WordPressでよくあるシナリオ:

  1. プラグインAをインストール
  2. プラグインBと競合して動作不良
  3. プラグインCで解決しようとするが別の問題が発生
  4. 気づけば30個以上のプラグイン
  5. どれか1つがメンテナンス停止すると全体が崩壊

Drupalでは:

  • コア機能が充実しているため、モジュール数が少ない
  • モジュール間の互換性が高い
  • 依存関係が明確(Composer管理)
  • アップデートパスが保証されている

10年間のサポート

Drupalのメジャーバージョンは約3〜4年ごとにリリースされ、前バージョンは1年間サポートされます。

さらに、コミュニティや企業による延長サポート(LTS)も利用可能です。

比較: WordPress

  • バージョンアップは頻繁だが、破壊的変更は少ない
  • しかしテーマ・プラグインの互換性は保証なし
  • 5年後も同じテーマが使えるとは限らない

Drupalの場合

  • 計画的なアップグレード(事前に移行パス公開)
  • 後方互換性への配慮
  • コミュニティによる移行ツール提供

Drupal 10の新機能 - さらに進化した最新版

CKEditor 5への移行

リッチテキストエディタがCKEditor 5に刷新されました:

  • モダンなUI/UX
  • リアルタイムコラボレーション対応(今後実装予定)
  • プラグインアーキテクチャの改善
  • アクセシビリティの大幅向上

Oliveroテーマ - モダンなデフォルト

Oliveroという新しいデフォルトテーマが登場:

  • レスポンシブ対応
  • アクセシビリティ準拠(WCAG 2.1 AA)
  • カスタムプロパティ(CSS変数)による柔軟なカスタマイズ
  • Drupal 7時代の「Bartik」からの大幅進化

Clapperテーマ - 管理画面の刷新

管理画面もClapperテーマで見やすく:

  • 直感的なナビゲーション
  • モバイル対応の管理画面
  • コンテンツ編集の効率化

Symfony 6ベース

DrupalのコアがSymfony 6ベースになったことで:

  • パフォーマンス向上
  • 最新のPHP機能活用(Attributes、Named Arguments等)
  • セキュリティ強化
  • モダンな開発体験

自動アップデート(今後実装予定)

Drupal 10.1以降で自動アップデート機能が段階的に実装されます:

  • セキュリティパッチの自動適用
  • メンテナンスコストの削減
  • ダウンタイムの最小化

デメリットも正直に - Drupalに向いていないケース

ここまでDrupalの利点を語ってきましたが、正直にデメリットも伝えましょう。

学習曲線が急

Drupalは簡単ではありません

  • 概念の理解が必要(コンテンツタイプ、フィールド、Views等)
  • 管理画面が複雑
  • 初心者が独学で習得するには時間がかかる(数週間〜数ヶ月)

対策: 公式ドキュメント、コミュニティフォーラム、オンライン講座を活用。本シリーズ記事もお役に立てるはずです。

小規模サイトには過剰

個人ブログや5ページ程度の企業サイトなら、Drupalはオーバースペックです。

  • セットアップが複雑
  • サーバーリソースを比較的多く消費
  • 機能の大半を使わない

判断基準:

  • ページ数が100以下 → WordPress等を検討
  • 単純なブログ → WordPress、はてなブログ等
  • 複雑なコンテンツ構造・将来的な拡張性 → Drupal

開発者の確保が比較的難しい

WordPress開発者は数多くいますが、Drupalに精通した開発者は少ないです。

  • 採用コストが高い
  • 外注先の選択肢が限られる
  • チーム内での知識共有が重要

対策:

  • リモートワークで全国から募集
  • Drupalコミュニティでの人脈作り
  • 既存メンバーの育成(本シリーズが役立ちます)

ホスティングの選択肢

共有サーバーでDrupalを動かすのは推奨しません

  • VPS以上が望ましい
  • 専用のDrupalホスティングサービスは高額
  • サーバー管理の知識が必要

対策:

  • Pantheon、Acquia、Platform.sh等の専門ホスティング
  • AWS、Google Cloud等のクラウド(やや上級者向け)
  • 最近はDockerコンテナで簡単に環境構築可能

それでも、Drupalを選ぶ価値がある理由

ここまで読んで「やっぱり難しそう...」と思われたかもしれません。

でも考えてみてください。

あなたのWebサイトは、ビジネスの中核を担っていませんか?

  • 年間数千万円の売上に貢献している
  • 数万人のユーザーが日々アクセスしている
  • ブランドの顔として機能している
  • 5年、10年と長期運用する予定

そんなサイトに「とりあえず簡単だから」という理由でCMSを選んでいいのでしょうか?

Drupalは確かに初期投資が必要です。しかしそれは投資であり、浪費ではありません。

  • セキュリティインシデントのリスク削減
  • 技術的負債の回避
  • 将来的な拡張性の確保
  • 長期的な運用コストの削減

これらすべてを考慮すれば、Drupalは最もコストパフォーマンスの高い選択になり得ます。


まとめ - Drupalという「投資」

Drupalは「ツール」ではなく「投資」です。

あなたのビジネスが成長しても、要求が複雑化しても、Drupalは応え続けます。

この記事で伝えたかったこと:

  1. Drupalは決して難解なだけのCMSではない
  2. エンタープライズグレードのセキュリティと拡張性
  3. 世界中の一流組織が信頼する実績
  4. 長期的視点で見れば、最もコスト効率が良い
  5. デメリットを理解した上で選ぶ価値がある

今すぐできるアクション

記事を読むだけでは何も変わりません。まずは小さな一歩を:

  1. Drupalのデモサイトを触ってみる: simplytest.meで無料でDrupalを試せます
  2. コミュニティを覗いてみる: Drupal日本コミュニティに参加してみましょう
  3. 次回記事の通知を受け取る: この記事をブックマークして、続編をお待ちください

あなたのWebサイトの未来は、今日のCMS選択で決まります。

Drupalという選択を、真剣に検討してみませんか?