
Drupalとは?
Drupal(ドゥルーパル)は、PHPで開発されたオープンソースのCMS(コンテンツ管理システム)です。
世界中の政府機関・大学・メディアサイトで使われています。
Drupalの哲学
Drupalは単なる「CMS(コンテンツ管理システム)」ではありません。コンテンツ管理フレームワークという位置づけです。
WordPressが「ブログを書くためのツール」から進化したのに対し、Drupalは最初から「どんなWebアプリケーションでも構築できる基盤」として設計されています。
この違いは重要です。WordPressは「既にあるものを使う」感覚ですが、Drupalは「自分で設計する」感覚に近いのです。
これまでの歴史と進化
Drupalは2001年に誕生し、20年以上の歴史を持ちます。その間、世界中の開発者コミュニティによって磨き上げられてきました。
- Drupal 6 (2008): エンタープライズ採用が加速
- Drupal 7 (2011): Views統合により飛躍的に使いやすく
- Drupal 8 (2015): Symfonyフレームワーク採用で近代化、多言語対応をコア機能に統合
- Drupal 9 (2020): レガシーコード削除、継続的なアップデートモデル(Drupal Core)を開始
- Drupal 10 (2022): 最新技術スタック(PHP, Symfony, Composerなど)への完全移行
- Drupal CMS (2025): 非開発者(マーケター、サイトビルダー)向けの利用体験を最適化し、事前設定されたパッケージで導入障壁を大幅に低減
Drupal 10の技術スタック
Drupal 10は、最新のWeb技術標準に準拠しています:
- Symfony 6: PHPの最先端フレームワークをコアに採用
- PHP 8.1+: 最新のPHP機能を活用(8.3推奨)
- Twig: セキュアなテンプレートエンジン
- Composer: モダンな依存関係管理
- CKEditor 5: 次世代のリッチテキストエディタ
これらは単なる「流行の技術」ではなく、長期的な保守性とセキュリティを保証するための選択です。
WordPress vs Drupal - どちらを選ぶべきか
まず明確にしておきたいのは、WordPressとDrupalは競合ではなく、用途が異なるということです。
比較項目 | WordPress | Drupal |
---|---|---|
市場シェア | 約43%(圧倒的) | 約2%(ニッチ) |
主な用途 | ブログ、中小企業サイト | エンタープライズ、政府機関 |
学習コスト | 低い(数日〜数週間) | 高い(数週間〜数ヶ月) |
拡張性 | プラグインに依存 | コアアーキテクチャレベル |
セキュリティ | プラグイン次第 | 専門チームが常時監視 |
大規模サイト | 工夫が必要 | 標準で対応 |
開発者確保 | 容易 | やや困難 |
長期保守性 | テーマ/プラグイン依存 | コアアップデートで継続 |
WordPressが向いているケース
- 個人ブログ、小規模サイト
- 迅速な立ち上げが必要
- 技術リソースが限られている
- 標準的な機能で十分
Drupalが向いているケース
- 大規模サイト(数千〜数万ページ)
- 複雑なコンテンツ構造
- 高度なセキュリティ要求
- 多言語・マルチサイト
- 長期運用(5年以上)
- カスタマイズが前提
その他CMSとの比較
Joomla: DrupalとWordPressの中間的な位置づけ。
Contentful/Strapi(ヘッドレスCMS): モダンな選択肢ですが、Drupalも完全にヘッドレスCMSとして機能します。しかもレガシーシステムとの統合も可能。
独自CMS: 開発コストと保守コストを考えると、よほど特殊な要件がない限りDrupalで実現できます。
Drupalを選ぶべき5つの理由
理由1: エンタープライズグレードのセキュリティ
Drupalの最大の強みはセキュリティです。
専門のセキュリティチーム
Drupalにはセキュリティチームが存在し、脆弱性の報告から対応まで組織的に行われます。
- 重大な脆弱性は24時間以内にパッチ公開
- 脆弱性報告を受けると迅速にパッチを公開(Security Advisories)
- 修正版は drupal/core などのComposer更新で即時反映可能
OWASP Top 10対策
DrupalはOWASP(Open Web Application Security Project)のTop 10脆弱性すべてに対する対策が標準実装されています:
- SQLインジェクション → パラメータ化クエリ
- XSS → Twigテンプレートエンジン
- CSRF → トークンベース保護
- クリックジャッキング → X-Frame-Options
WordPressでこれらすべてをカバーするには、複数のプラグインと細心の設定が必要です。
理由2: 無限のスケーラビリティ
「今は小規模だけど、将来的に大きくしたい」──そんなサイトにこそDrupalです。
実績が証明する処理能力
- Tesla: グローバルサイト展開
- Pfizer: 製品情報の多言語展開
- ネスレ日本: 企業サイト
- デジタル庁: ウェブサイト。政府統一Webサイトの共通CMS基盤を目指している
これらのサイトは「最初から大規模」だったわけではありません。Drupalのスケーラビリティにより、成長に合わせて拡張できたのです。
マルチサイト機能
1つのDrupalインストールで、複数のサイトを管理できます:
example.com (メインサイト)
blog.example.com (ブログ)
shop.example.com (ECサイト)
en.example.com (英語版)
fr.example.com (フランス語版)
データベースは共通でも分離でも可能。管理画面は統一され、アップデートも一度で済みます。
WordPressのマルチサイト機能とは、柔軟性の次元が違います。
理由3: 柔軟なコンテンツモデリング
Drupalの真髄は「コンテンツタイプ」と「フィールド」の概念です。
コンテンツタイプとは
WordPressには「投稿」と「固定ページ」がありますが、Drupalでは無限にコンテンツタイプを作成できます:
- ブログ記事
- 製品情報
- イベント
- ニュースリリース
- FAQ
- スタッフプロフィール
- レシピ
- 不動産物件 ...など
フィールドベースの設計
各コンテンツタイプには、必要なフィールドを自由に追加できます:
例: 製品情報コンテンツタイプ
- 製品名(テキスト)
- 価格(数値)
- 画像(メディア、複数)
- カテゴリ(タクソノミー参照)
- 仕様(段落、繰り返し可能)
- 在庫状況(リスト、選択式)
- 関連製品(エンティティ参照)
- PDF資料(ファイル)
これらすべてがコードを書かずに管理画面から設定できます。
ヘッドレスCMSとしても機能
Drupalは完全なRESTful APIとJSON:APIを標準搭載:
GET /jsonapi/node/product
{
"data": {
"type": "node--product",
"id": "uuid-here",
"attributes": {
"title": "商品名",
"field_price": 9800,
"field_stock": "in_stock"
}
}
}
React、Vue、Next.jsなどのフロントエンドから利用可能。モダンなJamstack構成も実現できます。
理由4: 多言語・マルチサイト標準対応
グローバル展開を考えているなら、Drupalの多言語機能は他の追随を許しません。
100以上の言語に対応
Drupalはコア機能として多言語化をサポート:
- インターフェース翻訳
- コンテンツ翻訳
- URL翻訳(パス)
- メニュー翻訳
- タクソノミー翻訳
WordPressでは「WPML」や「Polylang」などのプラグインが必要ですが、Drupalでは標準です。
言語フォールバック
訳文が存在しない場合の処理も柔軟:
優先順位: 日本語 → 英語 → デフォルト言語
実例: グローバル企業のサイト
Johnson & Johnson: 60カ国以上の地域サイトをDrupalで統合管理しています。
各地域の規制に対応しながら、ブランドの統一性を保つ──これを実現できるのがDrupalです。
理由5: 長期的なコスト削減
「Drupalは初期投資が高い」──これは事実です。しかし、**TCO(Total Cost of Ownership)**で考えると話は変わります。
ライセンスフリー
Drupalは完全にオープンソース:
- ライセンス費用: 0円
- モジュール(99%以上): 0円
- テーマ(ほぼすべて): 0円
商用CMS(Sitecore、Adobe Experience Manager)だと、ライセンスだけで年間数百万円〜数千万円です。
技術的負債の削減
WordPressでよくあるシナリオ:
- プラグインAをインストール
- プラグインBと競合して動作不良
- プラグインCで解決しようとするが別の問題が発生
- 気づけば30個以上のプラグイン
- どれか1つがメンテナンス停止すると全体が崩壊
Drupalでは:
- コア機能が充実しているため、モジュール数が少ない
- モジュール間の互換性が高い
- 依存関係が明確(Composer管理)
- アップデートパスが保証されている
10年間のサポート
Drupalのメジャーバージョンは約3〜4年ごとにリリースされ、前バージョンは1年間サポートされます。
さらに、コミュニティや企業による延長サポート(LTS)も利用可能です。
比較: WordPress
- バージョンアップは頻繁だが、破壊的変更は少ない
- しかしテーマ・プラグインの互換性は保証なし
- 5年後も同じテーマが使えるとは限らない
Drupalの場合
- 計画的なアップグレード(事前に移行パス公開)
- 後方互換性への配慮
- コミュニティによる移行ツール提供
Drupal 10の新機能 - さらに進化した最新版
CKEditor 5への移行
リッチテキストエディタがCKEditor 5に刷新されました:
- モダンなUI/UX
- リアルタイムコラボレーション対応(今後実装予定)
- プラグインアーキテクチャの改善
- アクセシビリティの大幅向上
Oliveroテーマ - モダンなデフォルト
Oliveroという新しいデフォルトテーマが登場:
- レスポンシブ対応
- アクセシビリティ準拠(WCAG 2.1 AA)
- カスタムプロパティ(CSS変数)による柔軟なカスタマイズ
- Drupal 7時代の「Bartik」からの大幅進化
Clapperテーマ - 管理画面の刷新
管理画面もClapperテーマで見やすく:
- 直感的なナビゲーション
- モバイル対応の管理画面
- コンテンツ編集の効率化
Symfony 6ベース
DrupalのコアがSymfony 6ベースになったことで:
- パフォーマンス向上
- 最新のPHP機能活用(Attributes、Named Arguments等)
- セキュリティ強化
- モダンな開発体験
自動アップデート(今後実装予定)
Drupal 10.1以降で自動アップデート機能が段階的に実装されます:
- セキュリティパッチの自動適用
- メンテナンスコストの削減
- ダウンタイムの最小化
デメリットも正直に - Drupalに向いていないケース
ここまでDrupalの利点を語ってきましたが、正直にデメリットも伝えましょう。
学習曲線が急
Drupalは簡単ではありません。
- 概念の理解が必要(コンテンツタイプ、フィールド、Views等)
- 管理画面が複雑
- 初心者が独学で習得するには時間がかかる(数週間〜数ヶ月)
対策: 公式ドキュメント、コミュニティフォーラム、オンライン講座を活用。本シリーズ記事もお役に立てるはずです。
小規模サイトには過剰
個人ブログや5ページ程度の企業サイトなら、Drupalはオーバースペックです。
- セットアップが複雑
- サーバーリソースを比較的多く消費
- 機能の大半を使わない
判断基準:
- ページ数が100以下 → WordPress等を検討
- 単純なブログ → WordPress、はてなブログ等
- 複雑なコンテンツ構造・将来的な拡張性 → Drupal
開発者の確保が比較的難しい
WordPress開発者は数多くいますが、Drupalに精通した開発者は少ないです。
- 採用コストが高い
- 外注先の選択肢が限られる
- チーム内での知識共有が重要
対策:
- リモートワークで全国から募集
- Drupalコミュニティでの人脈作り
- 既存メンバーの育成(本シリーズが役立ちます)
ホスティングの選択肢
共有サーバーでDrupalを動かすのは推奨しません。
- VPS以上が望ましい
- 専用のDrupalホスティングサービスは高額
- サーバー管理の知識が必要
対策:
- Pantheon、Acquia、Platform.sh等の専門ホスティング
- AWS、Google Cloud等のクラウド(やや上級者向け)
- 最近はDockerコンテナで簡単に環境構築可能
それでも、Drupalを選ぶ価値がある理由
ここまで読んで「やっぱり難しそう...」と思われたかもしれません。
でも考えてみてください。
あなたのWebサイトは、ビジネスの中核を担っていませんか?
- 年間数千万円の売上に貢献している
- 数万人のユーザーが日々アクセスしている
- ブランドの顔として機能している
- 5年、10年と長期運用する予定
そんなサイトに「とりあえず簡単だから」という理由でCMSを選んでいいのでしょうか?
Drupalは確かに初期投資が必要です。しかしそれは投資であり、浪費ではありません。
- セキュリティインシデントのリスク削減
- 技術的負債の回避
- 将来的な拡張性の確保
- 長期的な運用コストの削減
これらすべてを考慮すれば、Drupalは最もコストパフォーマンスの高い選択になり得ます。
まとめ - Drupalという「投資」
Drupalは「ツール」ではなく「投資」です。
あなたのビジネスが成長しても、要求が複雑化しても、Drupalは応え続けます。
この記事で伝えたかったこと:
- Drupalは決して難解なだけのCMSではない
- エンタープライズグレードのセキュリティと拡張性
- 世界中の一流組織が信頼する実績
- 長期的視点で見れば、最もコスト効率が良い
- デメリットを理解した上で選ぶ価値がある
今すぐできるアクション
記事を読むだけでは何も変わりません。まずは小さな一歩を:
- Drupalのデモサイトを触ってみる: simplytest.meで無料でDrupalを試せます
- コミュニティを覗いてみる: Drupal日本コミュニティに参加してみましょう
- 次回記事の通知を受け取る: この記事をブックマークして、続編をお待ちください
あなたのWebサイトの未来は、今日のCMS選択で決まります。
Drupalという選択を、真剣に検討してみませんか?